祝カンヌ脚本賞受賞。喪失と疾走。映画 ドライブ・マイ・カー
皆様こんにちは。
ROBROY designing outdoors
秋元悠佑です。
祝 2021カンヌ国際映画祭脚本賞受賞作品 映画「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)をシネマサンシャイン沼津にて鑑賞してきました。
よくぞ村上春樹の映像化をやり切った。偉い。お見事!
※ 村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」に収録されている短編「ドライブ・マイ・カー」を、「偶然と想像」でベネチア国際映画祭銀熊賞を受賞した濱口竜介監督が実写映画化した作品。
良かった点。
○ 脚本、ストーリー
脚本は、濱口竜介監督と大江崇允さんという方で手がけられており、今回、カンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞しています。これは日本人では初の快挙。濱口監督は、ベネチアからベルリンから、3大映画祭で何かしらの賞を受けている、今、海外映画祭から最も評価される日本人監督のようですね。
作品の質とは関係ない事ですが、東京大学の出身の方なんですね。大島渚監督並みだな。。
なるほど今作は、脚本が良かった。原作を読んでいないので、どこまで原作に忠実なのかわかりませんでしたが、話がどこに飛んでいくかわからない面白さがありました。
先が読めない、終わりが想像出来ない。「人間」を扱ったエンターテイメントに昇華されていて。
上映時間2時間59分(!)を長く感じさせない、脚本が見事でした。私は面白かった。
○ サーブ900
タイトルからしてクルマの映画であって、クルマもメインキャストの作品です。今作の主人公は、赤のサーブ初代900。原作だと「黄色」であることが重要らしく、「赤」になったことには批判的な意見も。
左ハンドルで、3ドアのハッチバックであるから、(乗り降りが死ぬほど面倒なので、)後部座席に乗って送り迎えするとか、実際はありえないと思うのだけど。。
こんな古いクルマ、交通事故で破損したら(劇中で修理に出してる)、部品ないと思うけど。。
それから、描写はなかったけど、いつスタッドレスに履き替えたんだ??(履き替えなきゃ、北海道無理)
細かいツッコミはともかく、サーブが走っている映像がやたら流れるわけですが、それが心地良い。なんというか、とても「映画的表現」に感じました。セリフもなく、クルマが高速道路をただ走っていく。でもそれが何かを暗示していて。人の持つ、「移動する快楽」を上手く表現出来ているな、と感じました。
○ キャスティング
全然詳しくないですが、村上春樹作品を映像化するにあたってポイントとなるのは、キャスティングだと思うのですよ。だって、村上文学の登場人物は、現実には言わないようなセリフまわしをするわけじゃないですか。(メタファーとして)例えばテラスで、サンドイッチ食ったりするわけじゃないですか。そんなのって、ありえないと思うわけ。
でも今作は、キャスティングの妙によって、ぎりぎりありえると思える作品に仕上がっていたと思います。
誰を起用するか、という問題において、完璧じゃないかと思えるキャスティングに感じました。
西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生、皆良かった。
韓国チームでは、手話のご夫婦(名前はわからず)が良かったですね。
村上春樹のセリフも、西島さんならありだと思ったし、MVPは三浦透子さん。あの「なっちゃん」がここまでやさぐれているとは。(笑)存在感が最高に良かった。
個人的感想。
今回感じたのは、主に2つのポイント。
喪失感と疾走感。
村上文学の特徴でもあるんでしょうけど、登場人物たちは、何かしらの「喪失」を抱えていて、そこからの回復、再生を物語にして見せているように感じました。ある人にとっては、それは家族であり、ある人にとっては、それは生きる意味だったり。もう戻ってこないんだけど、もう一度会いたい。そんな感情を、誰もが抱えながら生きていくものかなぁって。
物語は、大きく3つの構成になっていて、主人公「家福」と妻「音」との夫婦パートと、「ワーニャ伯父さん」の広島パートと、クライマックスにつながる北海道パートに分かれる感じですけど、そのどれもが、失うものの儚さと、尊さを表現しているように感じました。
で、それらのシーンをつないでいくのが、サーブのドライブのシーンで。クルマとドライブを使って、心情を表現する手法がうまいと思ったし、何というか、めちゃめちゃエモかった。(笑)
ただクルマが走っているだけで、思わず見とれてしまう画の力がありましたが、それを見て思ったのが、”移動の快楽”は3大欲求に続く、人類の4番目の欲求なのではないかという事。
村上春樹さんですから、セックスや男女の関係性は描かれているし、欲を描くことが人間を描くってことなんでしょうけど、「移動する」(それもクルマで”疾走”する)ことは欲求であり、人類の快楽なのではないかと思いました。
だから、欲求が満たされている車内では、外とは違った人格でもって話が出来るし、欲求のままに遠くに行きたくなるのだし。
そう考えると、劇中で詳しく描かれていませんけど、三浦透子さんのラストの展開が腑に落ちるというか。
現代において、ドライブすることは、「人類がやらなければ生きて行けないこと」の一つなのかもなぁ。。
ドライブ、つまりモビリティで疾走することは、「麻薬であり、セックスである」。という安い結論に落ち着きました。(笑)
これをさらっと演出で見せている濱口竜介監督は、好みはあるとしても、半端ない才能の巨匠だな、と感じました。これは監督の名前だけで、見なきゃいけないやつだわ。
とにかく、上手く説明出来ないような作品ですが、これはいい映画であって、
※ (ハルキストがどう見ているか知らないが)村上春樹の映像化として、上手くいっているなと思ったし、
※ 現代の最重要巨匠、濱口竜介監督の最新作だし、
※ 深読み考察出来るポイントは多々あるし、
※ 言葉で説明しない、映画的演出とは何かを考えさせられるし、
※ 「女と男の関係性」や「言語の通じない者同士のコミュニケーション」など深いテーマを扱っているし、
※ 脚本がよく練られていて、エンターテイメントとしても面白い!
ってことで、大人はめっちゃ楽しめる映画であると思いました。
ただ一つの難点としては、
体感時間は長くは感じなかったけど、上映時間は3時間!
「おしっこはマストで行っとけ」ってことですね。(笑)
私は、観客が私一人だったこともあり、没入して楽しめました。
これこそ、劇場に閉じ込められないと見られない名作でした。
ありがとうございました。
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