自分らしく、”適応”する。 小説 コンビニ人間
2022.03.19

自分らしく、”適応”する。 小説 コンビニ人間

皆様こんにちは。
ROBROY designing outdoors
秋元悠佑です。

2016年第155回芥川賞受賞作の小説「コンビニ人間」(村田沙耶香 著)を非常に面白く読みました。
感想をメモしておきます。

○ きっかけは、「POP LIFE」

正直、小説に触れること自体が久々なのですが、、
大好きなSpotifyのポッドキャスト「POP LIFE the Podcast」で、この「コンビニ人間」が課題作品となりました。ファンとして「POP LIFE」をより楽しむために、今回この「コンビニ人間」を手に取ったというわけであります。

手に取ってみると、

ハードカバーでも厚さはなくて、持ち運びしやすい。
非常に読みやすい文体。
章立てもなく、一気に読める。

というわけで、課題作品としては、とっつきやすさが良かったです。あっと言う間に読めます。
芥川賞受賞作とかって、もっと難しい感じか?と思っていましたが、随分とライトな印象を受けました。
時代に合わせてなんですかね?それとも、もともとこういうものなんですかね?

作者の村田沙耶香さんは、アラフォーという点で、自分とほぼ同世代。
今作の主人公である「古倉恵子」さんは、36歳の女性という設定。現37歳の自分が日頃感じている、「社会に対して感じている違和感」に関しては、ほぼ共感出来るような内容でした。

今作は、要は「特に我々の世代が、社会に対して感じている生きづらさ」にまつわる話であって、主人公は「コンビニ人間」になることで、社会をサバイブしていく。というお話。

だけど、主人公が超変人なため、それを苦労と感じていない点が、この小説の面白い点だなと感じました。

○ テーマはきっと「個性とは何か?」「社会に適応するとは何か?」「時間の有限性について」

主人公「古倉恵子」さんは、36歳未婚・処女で、職業はコンビニのアルバイト。同じ店舗で18年間働き続けているという設定。
「結婚」と「就職」という、”社会のルール”の中で、どう立ち回って生きていくか、という主題のテーマが描かれて行きます。

つまり、この社会では、未婚でアルバイトなのが「問題」だって話になるわけ。
でも主人公は、それの何が、”問題”なのかわからない。
というストーリー。

現代社会批評として面白いテーマですが、村田さんの描き方が非常に上手くて、時代性を超えた普遍的なテーマがそこに乗ってきます。

※ コンビニという無機質で均一的なものを題材にしながら、そこで働く主人公は、実は誰より個性的な人間として描かれていて、ステレオタイプでは、人は測れない。という対比が上手かったり。
※ 社会に対して”適応”はするべきなのか?適応するにはどうしたら良いのか?という「社会と私」の話であったり。

※ 加齢をすると、自分が変わらなくても社会のなかでの役割が変化してしまう、という「時間の有限性」の話であったり。

現実としてそこにある、誰もが抱える普遍的な問題を、ストーリーテリングでもって、上手く見せてくれます。

芥川賞作家だから当然と言えば当然ですが、テクニカルに文章が上手いです。

○ 「アイデンティティ」は苦しい

それらを踏まえた上で、今作で1番の主題として村田さんが描きたかった点は、やはり「アイデンティティ」っていう永遠のテーマじゃないかと感じました。
主人公は、完璧なコンビニ店員となることで、”制度に支配されている人”となるわけですが、実はその方が、何からも支配されないよりは、よっぽど自分らしくいられると感じていて。
周囲のプレッシャーを感じながら、結婚するべきか?就職するべきか?という問題に、一応はぶち当たるわけですが、超変人な主人公には、それらは大した問題ではありません。
それを大変な問題だと感じているのは、周囲の方だけで。
当人には、それは関心のない、関係ない問題。

超変人な主人公も、迷いはする。作中で、いくつかのエピソードを経ますが、最終的には、「自分らしくいられる、ある方法」に辿り着きます。

結局最後行き着くのは、「自分らしくいられる方法」ってなんだろう?
という話なのです。

今作は特に女性の立場から、というテーマなので、男性である自分とは、感じ方が違う点もあるけれども、多くの部分は性別に関係ない「自分らしさ」を巡る問題についてで、共感出来ます。

この「自分らしく」っていうのがあるから、社会のなかで、人は苦しさを感じますよね。
それでも「自分らしさ」を追求して行かないと、人は生きられないし。

というわけで、個人の感想としては、ありきたりながら、

「自分らしさ」を考えるから、生きることは苦しい。

生きるとは、自分らしさの問題にぶち当たる。

でも、それが人生ってことじゃね?

そんな事を感じました。

○ 小説を読むこと

最後に、久々に小説というメディアに触れて感じたこと。

映画とは違う面白さがあって、それは「時間をかけられる」という点が大きいのかなと感じました。言い換えると、時間のペースを自分で握れる、という点。

この世には、一瞬で決めるべき問題と、時間をかけて考えた方が良い問題があって。
小説は、というか読書は、時間をかけることに適している。

ちょうど今、自分は考える事に時間をかけたいフェーズに入っているような気がしていたので、小説というメディアが、今の体質に合っているなと感じました。
本を読むという行為、ページを自分のペースでめくること。
それ自体が面白かったです。

波が、あるのでしょうね。本なんか読まない時は全く読まないわけですが、急に貪り読みたくなりました。
新しい面白さが、待っているかもしれない。

ということで、ブックレビューの回も定期的に入れたいと思います。
次回課題作品はもう決まっていて、これも芥川賞受賞作。宇佐見りんさんの「推し燃ゆ」で行きたいと思います。

てことで、「コンビニ人間」。主人公と境遇が重なるこのタイミングで出会えて良かったです。
面白かった。
ありがとうございました。

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