推すことは、背骨。 小説 推し燃ゆ
皆様こんにちは。
ROBROY designing outdoors
秋元悠佑です。
大好きなポッドキャスト番組「POP LIFE : The Podcast」(Spotify)で課題作品となったので、
第164回(2020年)芥川賞受賞作の小説「推し燃ゆ」(宇佐見りん著)を読んでみました。
こちらに感想をメモしておきます。
○ 作者は、宇佐見りんさん。
自分はどうしても、作品より先に作者のパーソナリティが気になってしまいます。
今作の作者は、宇佐見りんさん。ウィキペディアによると、静岡県沼津市出身。この「推し燃ゆ」は21歳の時に雑誌「文藝」で発表された作品で、河出書房新社から出版。
21歳での芥川賞受賞は、2004年の綿矢りさ、金原ひとみ以来の史上2番めの若さだそうです。
私がよく映画を観に行く「ららぽーと沼津」の書店では、地元出身作家ということで、この「推し燃ゆ」のコーナーが、ポップで大きく作られていたっけね。
作品全体の特徴として、今作は「作者が若い」というのが一つの大きなポイント。
今の若い世代の感性、「推し」という概念が、おじさんの入り口にやって来た私に響くことがあるのでしょうか?
そんなことを思いながら、読み進めました。
○ テーマは、ずばり、「推し」。
今作は、「推し」がテーマの小説です。
「推し」。
昔は確実に無かった言葉であり、存在しなかった概念。
さて、「推し」とは何でしょうか?
似たような他の概念の、「好き」や「萌え」とは何か違うのもなのでしょうか?
例えば、私が個人的に好きなものや、こと(例えば映画を観るとか)に対して、「推し」という概念はしっくりきません。そういう言い方はしないですね。
「推し」というのは何か、特定の人物に対して使う言葉のように感じます。
なかでも、「たくさんいる中から1人を選ぶ」というニュアンスが、最もしっくり来る気がします。
ということはですよ、今作の設定でもまさにそうなのですが、これはやはり、「アイドルカルチャー」用語なのですよ。それも、ジャニーズ、坂道に代表されるようなグループアイドルに対して用いられる概念。
なので、読み進めるにあたって思ったのは、
「まざま座」というグループアイドルの一人を熱狂的に「推す」、主人公女子高生の気持ちに上手く感情移入出来るかどうか、がこの小説を面白く読む鍵だなぁと感じました。
「推す」気持ちを感じられるかどうか?
個人的体験で言えば、アイドルって嫌いじゃないんだけど、好きか、と言われると、それほどでもなく。。
つまり、私には現状、「推し」はいません。
「推し」を持たない立場の人間が、熱狂的に「推し」ている女子高生をどう思ったか?
という私の感想に繋がっていきます。
○ 宗教であり、天皇。
主人公「あかり」は、普通のことが普通に出来ないことに悩む女子高生。発達障害があることが示唆されており、ドロップアウトしかけています。そこは文学の主人公って感じで良いのだけど、そのあかりの支えになっているのが、アイドルグループ「まざま座」の上野真幸。あかりは、普通のことは出来ないのだけど、「推し」のことだけは、猛烈に推せます。
ただし、「推し」とは一定の距離感も持っていて。
推しに対して自分が匿名の存在であり、矢印が一方通行であること、の心地よさも感じている状態です。
恋愛的に好きな状態とは、また違うこともしっかりと描写されています。
でも、人生は推しのためにあり、”推しは背骨である”とも。
物語は終盤にかけて、ストイックな、まるで宗教崇拝のような様相になっていきます。
これを読んでいて感じたのは、まるで「天皇」を崇拝するようだなぁって。
いつの時代も、人類にとってサバイブするためには、すがるもの、崇拝するものが必要だったのだろうけど、今作における推しとは、こと日本人にとっては、時代を変えれば、まさに「天皇」にあたるものなのだと理解しました。
それは、ファンとも違うし、(ファンはもっとライトな感じ)萌えとも違う。(萌えに崇拝感はない)
推しという感情は、もっと命がけなものなんですね。
自分より推し、なわけですから、主体性が自分にないように思える点も含めて、やっぱり私には、理解出来ない概念なのだということが、はっきりとわかりました。
とすると、例えばリアルワールドで「推し」を持っていた人、例えば「SMAP」や「嵐」の「推し」だった方々は、今どうやって暮らしているのでしょうか?
背骨を失い、生きていけるのか?
そんな、これまで考えたことないようなことにまで、想像を巡らせることになりました。
○ 小説として、イチエンタメ作品としては、、
Z世代の若い感性がありありと描かれていて、読みやすい文章。
LINEのやりとりなどが、文章としてさらっと描かれていて、そこも現代的。
芥川賞受賞作ということで、短編という点も素晴らしいです。薄いので、1日、2日で読めます。
上手い、と感じます。
しかし、作品の物語としての、いわゆるストーリーテリングの部分で、私はちょっと物足りなかったかなぁ。
「推し」という概念はわかる。その「尊さ」もよくわかるのだけど、それ以上に、物語がスイングする感じは正直感じなかったですね。
特にラストにかけて。それで終わっちゃうんだ、という「問題が解決されない置いてけぼり感」は、読者としては感じつつ。
余韻を残して終わっているので、きちんと”文学”ではあるのだろうけど。。
このあたりの解釈は、個人個人で作品の評価に繋がっていくところなのでしょうね。
○ まとめ。
芥川賞受賞作ということで、さも難しい話なのかと思いきや、こんなにあっさりしているとは。
まずそこに驚き。現代社会において、読者を長時間拘束するのは本当に難しいことだと思いますが、これなら気軽に読める。まずここが、偉いと感じました。
文学であるならば、やはり悩みだったり、生きづらさを描いてほしいと思うけれど、
今作はそれを若い感性で持って、現代をモチーフに描けている点が評価されるべき点なのかと。
一方で、特段新しい何かを感じたかと言われると、そういう感じもしなくて。
面白さの点でどうかと問われると、イマイチ没入感のようなものに欠けて、詰まるところ登場人物に感情移入が出来なかったという点において、私個人には今ひとつと感じた次第です。
でも、読む価値は絶対にあると感じます。
なぜならこれが、2020年代における芥川賞受賞作であり、現代における最新文学であるのだから。
同時代性を感じるという点で、「今」読むことに価値がある作品かなと思います。
ということで、「推し燃ゆ」のまとめでございました。
グリーンシーズンに忙しいアウトドアの商売をしておりまして、この先、どこまで読めるかわからんですけどね。
今年は、個人的には、小説の年と位置づけております。
なので、次作課題作品ですが、なんと大ネタ中の大ネタ、村上春樹でやりたいと思います。
少しは身になって、ツアーの質に繋がれば良いけど。(笑)
ありがとうございました。
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